東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)117号 判決
一 請求の原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。
(一) 本願発明の要旨、引用例の記載内容、本願発明と引用例記載のものとの一致点と相違点が審決認定のとおりであることは当事者間に争いがない。
(二) そこで、本願発明と引用例記載のものの相違点である送液管の上部にポンプを設けるか、下部にポンプを設けるかはいずれも慣用的に行われており当業者が必要に応じて適宜に選択しうる単なる設計事項であるとの審決の判断について吟味することとする。
1 まず、それが慣用的に行われているといえるかどうかについて考えてみる。
乙第一号証には、送液管内を垂下した駆動軸の下端にポンプを設けた押上型の深井戸用ポンプについての記載が、乙第二号証にはドラム缶等に容れた液体を外部に移出するための押上型ポンプについての記載が、乙第三号証には高粘度油取出し用の吸上型ポンプについての記載が、乙第四号証には吸上型の液体燃料移送用ポンプについての記載が、乙第五号証には押上型の石油コンロ用ポンプについての記載が、乙第七号証には、石油や水の移し変え等に使用する押上型のポンプについての記載が、それぞれなされているところ、いずれも成立に争いのない右乙号各証によれば、右乙号各証はいずれも本願発明の出願前の実用新案出願公告公報であることが認められ、特段の事情も認められないから、いずれもその記載内容は本願発明の出願前に公告されたものと認められる。そして、このことと弁論の全趣旨をあわせると、液体を揚げて外部に注出するためのポンプ設置方式として、駆動軸を送液管内に垂下してその下部にポンプを設けるいわゆる押上型ポンプ設置方式も、ポンプを送液管の上部に設けたいわゆる吸上型ポンプ設置方式も共に、本願発明の出願前にポンプの技術分野の当業者には周知であり、慣用的に行われていたものと認めることができる。
原告は、乙号各証記載のものは本願発明とは技術分野を異にすると主張する。
たしかに乙第一号証は揚程の高い深井戸ポンプに関するものではあるけれども、ポンプの設置方式についての技術に関するという点で本願発明と技術分野を異にするものではなく、また乙第二ないし第五号証、第七号証は、主として燃料油槽用のポンプに関するもので卓上・飲料用水用のものではないとしても、いずれも液体の揚液装置に関するものでしかも揚程も低いものに関するものであることはその記載内容から明らかであるから、この点で本願発明と技術分野を同じくする。要するに本願発明と乙号各証のものとは、ポンプ技術応用の目的物や規模に相違があるにせよ、技術的に分野を異にするものではないといえる。
なお、原告は、慣用的に行われていたことの事例を審決において示さなかつたのは理由不備であると主張するけれども、右のように当業者にとつて周知のことを審決に例示するかどうかは当不当の問題にとどまり、例示しなかつたとしても理由不備として違法となるものではない。
2 つぎに、本願発明において送液管内に垂下した駆動軸の下端にポンプを設けたことは送液管の上部にポンプを設けている引用例記載のものの単なる設計変更といえるかどうかについて考えてみる。
本願発明と引用例記載のものは、共に魔法瓶液体の自動注出装置として審決認定のような点で構成上一致するのであるから、本願発明も引用例記載のものも右構成上の一致点から全体的に生ずる同一の効果を奏する筈である。そうすると、審決のいう本願明細書記載の効果中、引用例と相違する効果(請求の原因(四)2)は本願発明と引用例記載のものとの具体的な構成上の相違点から生ずるものにほかならないことは明らかである。
ところが、本願発明と引用例記載のものの相違点であるポンプの設置方式については、吸込管内に垂下した駆動軸の下部にポンプを設けた押上型のものも、送液管の上部にポンプを設けた吸上型のものも共に本願発明の出願当時当業者にとり周知であり慣用的に行われていたことは前記のとおりであり、これを魔法瓶の自動注出装置に応用するについても、いずれのポンプ設置方式をとるかは当業者が任意に選択できる事項であるといいうる。とすれば、ポンプ設置方式が押上型に属する本願発明が、吸上型に属する引用例との対比において特に奏するという前記の効果は、周知・慣用の押上型のものに当然内在する効果であるということになり、格別のものということはできない。(なお、ポンプが飲料中の茶の葉等により障害されないとの点は、魔法瓶における特有の効果のようにもみえるが、液体混入物は土砂等のように一般のポンプの場合にもありうるのであり、右の効果も、ポンプの選択に伴い、その性質、構造から当然出て来る副次的のものというべきである。)
よつて、本願発明が引用例記載のものに比し審決が指摘するような欠点を有するかどうかにかかわりなく、本願発明の効果中引用例記載のものの奏しえない効果を格別のものとする原告の主張は理由がない。
そうであるとすれば、本願発明において送液管内に垂下した駆動軸の下端にポンプを設けたことは、送液管の上部にポンプを設けている引用例記載のものの単なる設計変更の域を出ないとみるべきである。
なお、原告は、審決は明細書記載の効果を認めながら本願発明の欠点を挙げてこれと相殺したことは違法であると主張するけれども、この点を除外して考えても、本願発明の効果は引用例記載のものに比し格別のものといえないことは前記のとおりであるから、審決の判断は結局において正当である(なお、この点につき原告が指摘する審決理由の前後をよく読めば、審決の趣旨は、原告のいう効果の相殺ということではなく、本願発明はいずれも一長一短のあるポンプの設置方式の一つを選択したに過ぎないことを強調したものに過ぎないと解される。)。
さらに、弁論の全趣旨によれば、審決は原査定と異なる理由で審判請求を成り立たないとしたものではないことが認められるから、本願発明の欠点について意見陳述の機会を与えなかつたとしても、それは当不当の問題にとどまり、違法の問題ではない。
(三) そうすると、本願発明は引用例記載のものと同一発明であり特許法第二九条第一項第三号に該当するとした審決はこれを正当として是認でき、これを取り消すべき事由はない。
三 よつて、本訴請求を棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
魔法瓶の口を閉塞する円筒室内にモーターを装置し、上記モーターを電池とスイツチにより制御し、ポンプを駆動する魔法瓶において、上記円筒室の底部から液封装置を介して、モーターの駆動軸を魔法瓶内底部に近く垂下し、該軸の下端にポンプを固設すると共に駆動軸の周りに送液管を設け、該送液管の上端を前記円筒室の下部に設けられた通路を経て注出口に接続した魔法瓶液体の自動注出装置。